自分で会社を作れたら、「医者に向かない医者を雇うこと」を目標の一つにしようと思っています。医者って、給与の単価が高いので、なかなか難しいのですけれど。
少し前、山中教授がノーベル賞を受賞された時、彼が、研修医時代に「ジャマナカ」と言われて邪魔者扱いされ、結局、最初に入った医局を追い出されるようにやめたっていうおはなしが、メディアなどで取り上げられました。あれは、ひょっとしたら、山中先生のリップサービスかもしれません。でも、僕には、非常にもっともらしく思えます。医者の世界では、そういう風に、自分の就職した診療科から追い出される若手の医者って案外多いのです。たぶん、少なく見積もっても、新人医師の3〜5%くらいは辞めていくんじゃないかと思います。たとえ、辞めなくても、自分がこの分野の適性がないと思いながら、イヤイヤ医者を続けている医者もいっぱいいます。世間では、医者ってのは、結構「憧れの仕事」みたいに思われていることも多いので、イヤイヤ医者をやっているなんて本当かよ?って思うかもしれませんが、そういう人は案外多い、というのが僕の印象です。
別に、彼らが無能だというわけではありません。医者に向かないだけで、他の仕事では、いいパフォーマンスを発揮するのではないかと思える人も多いのです。
お医者さんの仕事は、ある程度学力がないと難しいと思います。でも、それと同じくらい、性格上の適性の有無が結構重要なのですね。それは、よく言われるような、客商売的な人当たりの良さとか、そういう種類の話ではありません。人当たりなんて言うのは、ある程度努力すれば大抵の人が身につけられる話ですので、人付き合いが苦手なので医者ができない、なんて言う人は案外稀なのです(全くないとは、言いませんが)。
医者のしごとが苦手な医者、医者の仕事を苦痛に感じている医者には、いくつかタイプがあります。僕は、これまで見た医者の苦手な医者を、自分の独断で分類してきました。
リスクテイカー型、数学者型、空想家型、あたりが、メジャーなタイプでしょうか?
他にもいるかもしれませんが。。
リスクテイカー型
新規のチャレンジを好み、同じ事を繰り返すことを嫌うタイプです。検査結果などで、予想外の結果が出るとうれしさを隠せず、不安がる患者への配慮が出来無くなることがあります。また、妙なスタンドプレーや、ハイリスクな治療を好む傾向があります。どうも普通の医者をしていないように見える一方で、メディアへの露出が多かったり、著書が多かったりする、その先生やあの先生は、多分このタイプです。
世の中には、リスクを取ることが好ましい仕事と、好ましくない仕事があります。たとえば、テレビ記者や、ベンチャー投資家などは、リスクを取らなければいけない仕事でしょう。でも、逆に、銀行員や公務員などは、自分の勝手な判断でリスクを取られては困る仕事なんですね。
医療も、基本的にはリスクをとってはいけない仕事です。
医療では、簡単にリスクを取られては患者が危険なのです。(あなたは、処方するときにリスクを取りたがるような人に診察してもらいたいですか?)
ところが、世の中には、生来リスクをとるのが苦手な人や、反対に、生来リスクを取るのが好きな人がいるものです。
リスクを取れない性格の人が戦場カメラマンに向かないのと同じように、新規のチャレンジが極端に好きなリスクテイカーは普通の医者を続けることが苦しくなるのですね。
このタイプは、派手なイメージの私大出身者にも多いですが、案外、地方の進学校でない高校から国立大学に進んだ学生にも多いです。おそらく、周囲の多くが進学しないような高校から、一人だけ受験勉強して医学部に進むというのは、それ自体が本人にとっては大きなリスクを伴う決断だからなんでしょうね。
数学者型
彼らのほとんどが、「高校時代、得意科目は数学で、苦手科目は英語でした。」と言う事から命名しました。
一見、医師としての専門知識に難があり、しばしば、周囲の医師からは不勉強だと思われていることが多いです。記憶力に問題があるように見えることもあるのですが、話していると頭は悪くないように感じられます。つまり、ロジカルなのだけれど暗記が苦手なのです。医学は、極端に暗記が中心の学問です。医学は、科学技術の仲間、理科系の学問とみなされていることが多いですが、どちらかというと、医学の習得は外国語の習得に近いのです。外国語に文法があるように、医学にも理屈はあるのですが、外国語の文法と同じように、例外も多いのです。つまり、こういう患者にはこういう対応をする、と一つ一つ覚えていく必要があるのですね。外国語の習得で、場面ごとの適切な文例を、一つ一つ覚えていく必要があるのに似ています。
医学はこういう学問ですので、どうしても、暗記が苦手な人は医学を習得するのが難しくなります。暗記が苦手だけれど、数学などの理科系の科目に秀でていたため大学入試を突破したというような彼らは、学生時代に、医療以外の資格、例えば、法律や会計なんかの資格を取っていることも多いです。おそらく、学生時代から、自分が医学に向いていないと自覚して、他の進路を模索するからでしょうね。でも、たいていは、アブハチ取らずで、どっちも専門家としては中途半端になってしまうことが多いです。医学部での勉強をしながら他の勉強をするというのは難しいのです。
元々医学が不得意な彼らですが、時間をかければ多くの人が外国語を習得できるように、彼らも中年に差し掛かるころには、そこそこの技術を持った医師になれるようです。でも、僕としては、他分野に行けばもっと活躍できたろうにと、勿体なく思います。また、せっかく医学とそれ以外のジャンルの両方をおさえているのであれば、純粋な医者ではなくて、医学の関連分野の、両方の知識が必要とされる分野で仕事をすればいいのに、とも思います。
空想家型
良く言えばイマジネーションが豊富、悪く言えば妄想癖があるタイプです。あまり多くありません。なぜ、彼らが医者に向かないのか良く分からないのですが、どうも、極度にイマジネーションが豊富だと、医療現場の仕事は苦痛を感じることがあるようです。有名な小説家や漫画家で、医者の世界をドロップアウトしてから大成した人が何人もいますが、そういう人達はこのタイプなんじゃないかな、と思っています。
診療科によっては、このタイプは問題にならないことも多いようで、精神科など一部の診療科に集中して存在しているようでもあります。
3つほど、医者に向かない医者のタイプを挙げてきました。この種のタイプの人の多くは、確かに医者には向かないのですが、決して他の医者よりも知的能力が劣っているというわけではなく、また、社会人として問題があるというわけでもありません。
最近、普通のビジネスをしている人と多く会うようになって、そういう、医者に向かない医者の性質の多くは、ビジネスの世界では長所になることが多いんじゃないだろうか、と思うようになりました。連中を雇い上げて、医療関連ビジネスで戦力として使えば、彼ら自身も、病院で働いているより生き生きと楽しく働けるんじゃないだろうか、と思っています。もし、自分で会社を作るなら、そういう人達を雇うような仕事をしたいな、と思っています。
0 件のコメント:
コメントを投稿