僕は、医者とエンジニアの仕事を兼業するようになって、もう、10年近くになります。医者一本で仕事せずに兼業を始めた、そもそもの理由の一つは、ノマド的な仕事のスタイルに憧れたからなんですね。医者の仕事ってのは、どうしても時間と場所に制約があります。患者っていう相手に会わないと仕事ができないんだから当然のことです。診療のスタイルによって若干違いますが、どうしたって患者が来る/いる時間に合わせて診察室や、入院病棟や、あるいは患者の自宅に訪問したりして仕事をする必要があるわけです。
で、そういうのじゃなくて、自分の好きな時間に好きな場所で仕事がしたいな、と、数年前、ふと思ったのです。僕は、昔から、プログラムを書くのはソコソコ得意でしたので、プログラムを書くような仕事ならば、時間や場所の制約が少ないんじゃないかな、と思ったのでした。
最初のうちは、某企業におじゃまして仕事していました。ただ、オフィスでの仕事って、結構割り込みがあるのですね。
一心不乱にプログラムを書いている時に、他の仕事が割り込んでくると、結構、うっとおしい。それが重要なものならば、納得もできるのですが、たいていは、くだらない相談とか、くだらないミーティングのたぐいが割り込んできて仕事が中断する。と、もううんざりです。
大したことない割り込み仕事は、ちゃちゃっと終わらせるんですが、割り込み前の意識の集中を取り戻すのに、また、結構、時間がかかっちゃうんですね。
で、やっぱり自宅で仕事したほうがいいかな、と思うようになったわけです。
自宅で一人で仕事をしていれば、こういう面倒な割り込みを最小限にできるじゃないか、そうすれば、仕事の能率も最高度に上がるんじゃないか。好きな時間まで自由に仕事をして、好きな時間まで自由に休んで、時間に拘束されないなんて、理想の仕事のスタイルじゃないか。
そう思っていたのです。
そういうわけで、一昨年くらいから、エンジニア的な仕事をするときには、完全に自宅で仕事をするように切り替えてしまいました。仕事の打合わせなどは外で行いますが、引き受けた仕事は、自宅で行うようにしたのです。
さて、自由に仕事ができるようになって、自分のしごとの能率は上がったのでしょうか。実際にやってみると、現実は、もう少し複雑でした。ノマドを始めた時には思ってもいなかった弊害がたくさん出てきたのでした。リストにしてみます。
1,集中力が持たない。
割り込みがなくても、誰も見ていない環境で長時間集中して仕事をするというのは、案外むつかしいのです。
上に書いたように、僕は、仕事中に集中が途切れるのは、周囲から邪魔が入るからだと思っていました。集中している時に限って、一緒に昼食を食べようと誘いが入ったりとか、緊急でどうでもいい会議が入ったりとか。
でも、実は、そういう邪魔が入らなかったとしても、長時間、一人で仕事に集中するというのは案外難しいのです。長時間一人でいると、つい、お菓子を食べたり、ボーッとしたり、部屋の片付けをしたり、気がつくと、一日過ぎていて、今日は本当は何をするつもりだったんだっけ?ってなことになりがちです。会社などに勤めている間はそれほど自覚しないでしょうが、僕以外の多くの人も、何も刺激がない中で集中力を維持するのは難しいのではないかと思います。
2、生活リズムが維持できない。
仕事を好きな時間に初めて、好きな時間に終わらせる。それが当初の理想でした。でも、そうなると、睡眠や食事、仕事の時間が、マチマチになります。
昼間ずっと眠っていた後、夜中に起きだして仕事して、そのまま翌日も一日パジャマで仕事して、気がつくと正しい生活のリズムなんて吹き飛んでしまうんですね。人間は、生活のリズムが乱れると、すぐに体調を崩してしまいます。大学生の頃は、そういうリズムの乱れた生活でも平気でした。でも、今の僕は大学生の時より年をとって、ずいぶん体力も落ちているんですね。「勤務時間」を決めないと体力が持ちません。
3,自分で決めた勤務時間を守れない
「勤務時間」を自分で決めたとしましょう。たとえば、仕事は必ず9時から17時までにする、という風に決めてしまうのです。これは、好きな時間に仕事をするより、ずっと体には良いようです。でも、案外、自分で自分の「労務管理」を行うというのは難しいのですね。誰かが監視していないと、仕事をはじめる時間も終わる時間も、簡単にずれてしまいます。
4、世間話は重要
人と話さないで仕事を黙々と行うというのは、案外つらいものです。少しだけでも、他の人と話す時間を作るというのは重要です。うまく言えないんですが、全く人と話さないでずっと仕事をしていると、何か、自分がおかしくなりそうになるんですよね。メールやツイッターなどは、会話の代替にはなりません。
あと、技術的な仕事をしていると、他の人の意見を聞いたり、質問したりというのは、非常に重要になります。そういうのって、普段の世間話の中で少しずつ自然になされるものなんですね。
5,自宅で仕事したって、案外、邪魔は入る。
あと、家族がいる自宅で仕事をするというのは、実は、想像以上に邪魔がはいるものです。
僕の場合、医者と兼業だったので、上記のような弊害は、比較的軽症だったとは思います。医者の仕事は、どのみち、時間を決めて、その時間に診察し、患者と話さなくてはなりませんから。だから、エンジニア部分でどんなにいい加減にやっても、完全に会話がなくなったり、勤務時間がなくなったりしたわけじゃないんですね。でも、本当にエンジニア一本で、自宅(あるいは、スタバとかのカフェで)で一人で仕事をしてたら、もっと苦しかったのじゃないかと思います。
というわけで、最近は、次のようにしています。
1,できるだけ、一人で仕事をする日が連続しないようにする。
あんまり何日も一人で集中して仕事を続けても、結局、効率がいいのは最初の一日だけです。あとは、ぼーっとしてしまうことが多いので、できるだけ、一人で何日も続けて仕事をしないように、スケジュールを調節しています。
2,たとえ、一人で仕事をするときでも、簡単な仕様書や工程表を作る。
自分で自分の労務管理をするには必須です。それに、自分だけで仕事をしていると、仕事が本当に前に進んでいるのかわかりにくくなることがあるんです。そういう不安を軽減するためにも、必須です。
3,労働時間をタイマーなどで計る。
次の30分〜1時間に何をするか決めて、時間を区切って仕事しています。一応、キッチンタイマーで時間をはかっています。その時間が終わったら、仕事が残っているかどうかに関係なく、原則として短時間の休憩を入れるようにしています。
最後に、これだけやっても、やっぱり一人で仕事しているとダレてくるんですね。というわけで、できるだけ早いうちに脱ノマドをしようと思っています。ノマドが向く人もいるんでしょうけれど、僕は、ノマドが向かないんですね。きっと、こういう人は結構多いんじゃないかと思います。
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