2018年4月16日月曜日

健康を食い物にするメディアたち

やや過激なタイトルなのですが、内容は、メディアについての落ち着いた現状認識で、非常に好感を持てる内容でした。
たぶん、Welq事件の話を書いたのだろうと思っていたのですが、そういう、ネットメディアの話だけでなくて、既存の新聞やテレビなどにも目を向けたかなり広い視野の議論の本です。
この本、とくに良いと思ったのは、医学の素人である一般の人が、どうやって信頼できる健康情報と信頼できない健康情報を区別するか、また、なぜ、信頼できないいい加減な情報を多くの人が信じてしまうか、など、とくに一般の人に大切と思われる話に、ちゃんと言及していることです。
これは、私、常々、自分の患者に言っていることなのですが、
煽ったり脅かしたりするような言い方をする「専門家」の解説は眉に唾をつけて聞かなくてはいけません。本当に信用できる専門家は、科学が確実でないということを嫌という程知ってるからです。だから、これが真実だと著者の主張を押し付けようとしたり、煽ったりする人は、たいてい、あまり科学的には正しくありません。自分の意見と違う意見を持つ素人の患者に攻撃的になる医者は、あまり信用しないほうが良いと思っています。逆に、信用できるような人ほど、慎重で、曖昧で、奥歯に物が挟まったような言い方になります。医学の結論は、たいてい確率的なものであり、医学は、何かを断定することができるほど決定的な結論を出せる学問ではないからです。
特に、「絶対に」「奇跡の」「百%」「最先端」「最新の」あたりはNGワードです。
そういう話が、丁寧に書かれています。
もう一つ、良いなと思ったのは、こういう「健康を食い物にするメディア」を信じてしまう「非科学的」な人たちにも攻撃的になることなく、やさしく、その心理について分析していることです。私は、常々、非科学的な態度を取る素人に大して優しい態度を取れない医療者がいることが、そういう人を、逆に非科学的な治療の方向に追いやってしまっていると感じていました。ですので、そのへんを丁寧に書いてくれていることも、大変ありがたいと思いました。
この辺は、医療に関心のある人だけでなく、カルト宗教とか、詐欺的な商法とか、そのへんを相手に苦労している人にも読んでほしいかな、と思います。
あと、この著者の書くこれだけの量の纏まった文章は、私は初めて読んだのですが、この人、ライターの仕事、文章を書いて何かを伝えるということが本当に好きなんだなぁ、と思いました。私、どこかで、この人に、「あなたは医者よりもライターのほうが向いていると思う」というようなことを言った記憶があるのですが、これだけライターが好きなら、やっぱり、医者ではなくて、そっちが天職だと思います。
であれば、この人は、もう少し、自分だけは「健康情報を食い物に」していくことを考えて良いのではないかなぁ。メディアで一生食っていくということは、それはそれで大変なことだし、それに、こういう良心的な文章を書く人に食いものにされることは、健康や医療にとっても大きなメリットであるはずだと思うのです。

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