「Wikipediaの病気についてのページの90%が間違い」
という話があって、いろんな記事になって、まあ、最近話題になっているのだけれど、これについて、少し思っていることをまとめておこうと思う。
まず、第一に、実は、この記事のタイトルは、かなりミスリーディングである。記事内容をよく読むと、「病気についてWikipediaにかかれていることの90%が間違い」なのではなくて、「Wikipediaの病気についての項目のページの90%が、ページのどこかに間違いを含む」という話なのである。前者と後者では全然違う。病気について書かれていることの90%が間違いであれば、そんな百科事典はまるで使い物にならないが、病気についての様々な記載のどこかに間違いが含まれる割合が90%というのであれば、注意して内容を確認しながら使えば、十分に使い物になるだろう。もちろん、医者が、ときどき間違いが含まれる百科事典の記事をそのまま信用して治療したりしたら、そりゃあ、問題だろうけれど、そもそも、百科事典というのは、そういう使われ方をするようなものではない。
そういうわけで、僕自身は、結構、医学関係の調べ物にもWikipediaを使っている。たとえ、完全には信用できない、あとで記事内容を確認しなくてはならない百科事典であっても、とりあえず、ネットに繋がっていればいつでも読める、そこそこまとまった記事がそろったWikipediaは、調べ物には非常に重宝するのだ。
そういうわけで、医学関係のWikipediaのヘビーユーザーである僕は、「医学関係のWikipediaの間違い」も、そこそこ経験しているように思う。そして、きちんと統計をとったことはないが、確かに、そういう僕の感覚でも、Wikipediaにある医学関連記事のうち、80〜90%くらいの記事は、どこかしら不適切な記述を含んでいるように思われる。
僕には、Wikipediaの医学関連の記事の間違いには、一定の傾向があるように思われる。そういうWikipediaの間違いの傾向は、たぶん、医学関係の調べ物にWikipediaを使う多くの人にとって気になるところだろうから、ここにまとめておこうと思う。
僕の感覚では、多くの不適切な部分というのは、以下のようなものだ。
1,記述が古い。
元の論文を読んではいないのだけれど、おそらく、「Wikipediaの記事の90%を間違い」という結論を出した今回の調査の中で、最も問題視されたのは、ここだと思う。というのは、この調査をした医師は、「主要な診療マニュアルの最新版や、最新の科学的治験と比較しての不一致」と書いているらしいから。確かに、Wikipediaの記述は、少し(数年程度)古い教科書や論文を元にして書かれているものが多い気がする。しかし、これは、最新の論文の記載が、Wikipediaの記事になるまでのタイムラグだと考えれば、当たり前ことだ。
Wikipediaの記事は、他の一般向けの記事を参考にして書かれることが多いようだ。そうだとすると、最新の論文がWikipediaの記事になるには、まず、最新の論文の内容が総説論文にまとめられ、それが一般向けの記事に反映され、さらにそれを参考にしてWikipediaの記事が書かれる。おそらく、その過程で数年程度の時間がかかるのだろう。
僕は、この、記事の遅れという問題は、 Wikipediaを使う人が、そういう問題の存在を理解していれば、大きな欠点にはならないのではないかと思う。つまり、Wikipediaは、あなたの調べたい病気について、分かりやすくまとめてあるかもしれないが、そこに書いてある検査方法や治療方法は最新のものではないかもしれない、ということだ。最新の知識がほしい時には、Wikipedia以外のサイトや本を合わせて参照してほしい。
2,そのテーマについて意見の不一致があり、少数派の意見を持っている人が、強い正義感と信念を持っている場合、多数派の意見について記述が足りないことがある。
これは、1,よりも数はずっと少ないが、結構深刻な問題だと思う。
たとえば、ある種の陰謀論を信じている人がいる。そういう人たちによると、ある予防接種の背後には、国民を不妊症にして人口調整をしようとする外国政府や秘密結社の陰謀がある。あるいは、その予防接種は、実は、病気を予防する力などないのに、ただ、単に、医師と製薬会社が収益を上げるためだけに病気の予防ができるかのように宣伝されているのだと主張する人もいる。また、精神科で処方される薬は、実は、全く効かないのに、医者の金儲けのためだけに処方されていると主張する人もいる。がんには抗癌剤は一切効かないし、がんの外科手術はほとんどが無駄だと主張する人もいる。
これに対して、多数派の医師は、そのようには信じていない。確かに、予防接種の後に、有害な現象が起こることはある。しかし、そういった有害な現象による害と、予防接種が病気を予防してくれる利益を比べて、後者のほうが大きいと考えているから、予防接種をするのである。薬も、通常は、副作用によるデメリットに比べて、治療効果によるメリットのほうが大きいと考えている場合にのみ処方されるし、手術だって、そういうものだ。
もちろん、多数派の医者の間でも、実際には、少々のややこしい議論はある。たとえば、ある種の予防接種、たとえば、子宮頸がんワクチンについては、絶対にメリットのほうが大きいと言えるか、というと、僕は今の時点では、まだよくわからないと思っている。だから、多くの人に接種を勧める前に、もう少しだけ様子を見ても良いのではないかと思っている。また、向精神薬を過剰に投与している医者があちこちにいると感じているし、そういう医者に、なんらかの対策が必要なのではないかとも思っている。でも、こういう種類のデリケートな議論は、上のような極論をいう少数派とは、完全に別物だ。
問題は、こういう少数派の一部が、かなり強く自分の意見を信じていて、奇妙なくらい強い正義感と信念を持っていることだ。
どうも、ときどき、そういう「正義の少数派」がWikipediaにやってきて、自分の奇妙な意見を書き込んだり、自分が気に入らない意見を消して回ったりしているようだ。もっともWikipediaに書き込まれた「正義の少数派」の奇妙な意見は、たいていは、すぐに消される。しかし、一旦消された「不正義の多数派」の意見を書き直すのは、案外たいへんである。結果、何度か繰り返される編集合戦の後、「正義」の意見は消されるものの、「不正義」の意見も記載不足という平衡状態に陥っていることが多いようだ。奇妙な論争がある分野では、他のサイトや本を合わせて参照のこと。
3,特定の会社や、その商品に都合の悪い記述は、なぜか、消えてしまうことがある。
これも、2,と同じ、編集合戦の結果、起こるものだろうと思う。ある種のサプリメントや健康食品に対する批判は、たとえ、医学的に正しくても、消えてしまうことがある。時に、あまり科学的でない記述に置き換えられることがある。もっとも、そういう記載の多くは、しばらくたつと、また訂正される。Wikipediaにある、サプリメント、化粧品、健康食品などについての記載は、あまり信用しすぎないこと。
というわけで、Wikipediaの間違いの傾向について、書いてみました。
こういう問題が発生するのは、個々の記事の問題というよりも、そもそものWikipediaの設計や運営の本質的な欠陥が原因のような気がします。そういうわけで、次の記事では、どうしたら、こういった問題が解決できそうか、考えてみることにしましょう。
(その2につづきます)
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